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UBWルートの最終決戦直前のアーチャーの話。
覚醒は緩慢に。鈍痛を訴える意識の浮上と共にやってきた。
胡乱な意識を抱えたままいつもの癖で動かした掌が掴むのは馴染んだ硬質な宝石の感触ではなく、確かに響く鼓動の音―――どくん、と。
わずかな喪失感とそれを上回る衝動に深く息を吐けば波紋が水面を走るように意識が今度こそ切り替わる。
―――ああ、生きてる。
言葉にならない吐息を紡ぎ、空っぽを掴んだ掌を強く握りしめた。
凛トゥルーエンド後から始まる「彼」と「彼女」、そしてその周りの人々の話。
衛宮士郎は取り戻さなければならない。
あの終わりと始まりの日に、彼が零し、落としてしまったもの全てを。
遠坂凛は知らなくてはならない。
彼女が遠い日に憧れ、何よりも求めていたカタチのない確かなものを。
新作、アップしました。遅くなりましたがクリスマスな話。
シリアスですが少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
―――そうだ、これが答え。俺の、衛宮士郎が唯一つ胸を張れる確かなもの。
■
子守唄
(1771)
(04-11-10 19:51)
凛とアーチャー、或る夜のこと。
あくまで凛&弓です。アーチャーの独白。
けれど想わずにはいられないのだ。
欺瞞だと罵られ、偽善だと蔑まれようとも、
それでもどうかこの夜が、彼女に優しいものであるようにと。
それぞれの過去を描く連作〜Old Days Memory〜の第二弾「Home」です。
あれから何年も経ったけど、未だにその気持ちに名前をつけることが出来ないでいる。
初恋だったのだ―――と、今にして思えばそうなのかもしれなかった。
初めて会った時からその人の笑顔は私の心に刻み込まれていたのだ。
柔らかく笑いかけてくれた表情も、何処か寂しそうにも見えた横顔も、
私は全部覚えている。
切嗣さんは魔法使いみたいな人だった。